我が社の「姉歯=耐震偽装」問題

ホリエモン逮捕や偽メール事件、幼児殺害事件などで、マスコミからはすっかり忘れられたような存在になった「姉歯耐震偽装」問題が他人事ではないことが、我が社でも明らかになりました。
20才代の若い営業スタッフが、30歳代の先輩社員に相談しているのを小耳にはさんだところによると、問題は次のとおりです。

現象としては、我が社がクライアントから依頼されて手配したアルバイトが仕事をさぼった、ということ。イベント会場への道案内のために、プラカードを持って街角に立たせていたアルバイトが数時間以上も雲隠れしてしまったのです。トイレ休憩とか、場所の勘違いとかではありません。
アルバイトの手配を実際に行ったのは、外注先のSP会社です。
クライアントからの苦情を受けて、我が社の営業スタッフが外注先のSP会社に電話したところ、SP会社は「派遣先へ赴くまでは弊社の責任領域だが、そこから先は派遣先の管理下におかれるので責任の範囲外」という回答だったようです。担当営業の若い社員は「外注先のSP会社は無責任だ」と憤慨しているのですが、先輩社員は外注先のSP会社の言い分を支持して反論するのです。
先輩社員の論理:今回の外注先SP会社のアルバイト派遣料金は、他の人材派遣会社に比べてかなり廉価のはず。管理責任まで問われるとすれば、アルバイトの日当をもっと高くしなければならないし、監視スタッフを別途用意しなければならない。今回のトラブルの根本原因は、常識はずれの廉価な価格でアルバイトを手配したことにある。アルバイトの手配を実際に行ったのは、外注先のSP会社であるとはいえ、弊社の責任問題である。クライアントのこんなクレームを認めてはならない。
要は、安値で発注したクライアントが悪いのであって、弊社には責任がない、ということ。

やりとりを聞いていると、「姉歯耐震偽装」問題とそっくり同じ構造が浮き彫りになります。

1.仕事に関する責任感の欠如=職業倫理の崩壊
労働者の質が高いことでは世界でもトッップクラスだった我が国において、「近頃の若い者」だけではなく、30才〜40才台の中間管理職層においても職業倫理が極端に低下している。
企業活動の目的は利益=採算性の追求であるという大義名分のもとに、リストラという名の首切りが横行しており、実務を担当しない中間管理職層ほど立場が危うく、自己保身に走らざるをえない。
2.仕事のたらい回し=外注依存による無責任体制
リストラの横行により社員数が減少し、ひとりあたりの担当業務が質量ともに増加。アウトソーシングという名の外注依存型体制となる。直接的な利益を生まない管理部門のスタッフは人員減や部門廃止になり、品質管理チェックが不十分となる。仕事のたらい回しにより、責任の所在が曖昧になる。
3.コストカットの強要=サービスや商品の品質低下
実際の仕事を遂行する人間にいたるまでに幾重もの企業がからみ、それぞれのステップごとに利益を確保しようとする=コストダウンを強要される。今回の場合も「発注元・メーカー>販売業務代行会社>弊社(広告代理店)>SP業務代行会社・人材派遣会社>アルバイト」といった構造になります。コスト的に正社員では対応できないため、廉価=スキルの低い外注スタッフに仕事を丸投げするためサービスの品質は低下せざるを得ません。

品質維持のために必要なコストまでカットしたり、社員や外注先に犠牲を強いることによって目先の利益を向上させると「業績V字回復」などと賞賛され、経営手腕が評価されるような風潮のなかで、仕事の現場がいかに荒廃しているかを実証する「事件」です。
採算性や利益を至上の価値とし称揚し、人事評価の最高基準にする限りは、このような不祥事はなくなりません。世界最強企業のマイクロソフトが、数年前にそうしたように「利益」から「顧客満足度」へ、業績や人事評価の基準を転換させるべきだと思います。