楡周平『巨流再生』

楡周平経済小説・ビジネス小説で、やはり物流業界をテーマにした作品として『巨流再生』がある。モデル企業は佐川急便と思われる。
家電量販専門店に押されて存亡の危機にさらされている「街のデンキ屋さん」を物流ラストワンマイルとして再評価。ビジネス通販のアスクルに対抗して、「街のデンキ屋さん」を消費者や企業など顧客との受注窓口&配送にしたカタログ販売というビジネスモデルを提示した小説である。高齢化社会を背景にした、かなり説得力のある作品であるが、著者インタビューでは執筆意図について次のように語っている。

楽天ブックス:著者インタビュー
http://books.rakuten.co.jp/RBOOKS/pickup/interview/nire_s/
――楡さんといえば、朝倉恭介シリーズなどの国際謀略小説が人気を博していますが、『巨流再生』はビジネス小説ですね。
楡さん ぼくはジャンルにこだわっているつもりはないんですよ。(中略)ただ、従来のビジネス小説とは違うものを書きたいという気持ちはありました。ビジネス小説というと、実際にあったことを元に、その中での人間模様を描くものが多かったと思うんです。でも、ぼくは今まで誰も思いつかなかったようなことを書きたかった。この小説はこれから実現可能なことを書いた小説です。いわば、ぼくのビジネス企画書。私から読者であるビジネスマンの方々へのプレゼンなんです。
――確かに、現実と照らし合わせても説得力のある小説ですね。
楡さん さまざまな分析の結果、これなら実現可能だろうという結論を得て書きましたから。
――ご自身が外資系企業で、物流のお仕事に関わられていたそうですね。
楡さん 日本では物流は注目されづらい世界ですが、それだけに知られていない面白いネタがたくさんあるんですよ。(中略)
 ところが、外資企業に行くとまったく違うんですよ。「Distribution Empire」という言葉がありまして、訳せば「物流帝国」。この言葉は何を意味しているかというと、企業の中で物流部門が強い力を持っているということなんです。発言力もあるし、予算も使う。物流はものすごく大切なんだという考え方が発達しています。

巨大な資金や組織を背景に無理難題を押し付ける強者=エスタブリッシュメント勢力に対して、弱者が起死回生の反撃を試みるピカレスクロマンという本質において、ベストセラー『Cの福音』からビジネス小説『巨流再生』『ラストワンマイル』にいたるまで、楡周平の小説には一本筋が通っている。
『巨流再生』『ラストワンマイル』において提示されたビジネスモデルは、具体化せず企画倒れに終わっているようだが、ビジネスマンとしても一流のキャリアを有する作家なので今後の作品に注目しておきたい。